2014年11月3日月曜日

●ツユクサは日本中どこにでもある雑草●
Dsc00002_2 ツユクサ:黄色の葯をつけているのは仮おしべ。花弁は上2枚が青く、下の1枚が白い。
 ツユクサは、道ばたなど、日本のどこにでも普通に見られる。6月頃から9月頃まで、次々に花をつけていく息の長い花である。すかすかの中空の茎は、その下部が縦横無尽にのびて、あたりにいっぱい広がっているが、これで一年草である。毎年花から実をつけて、その種子で越冬し、春過ぎて芽を出して、毎年、毎年かわらず道ばたはびこる。なかなか生命力の豊かな花とも言える。コバルトブルーの花の色は、よく水に溶け出すため、昔染色に使われたという。

 ○にせのおしべ、仮おしべが鮮やか●

 鮮やかな黄色の葯がよく目立つおしべは、じつは葯の中に花粉がない。花は蜜も出さない。このおしべは言わば見せかけである。「仮おしべ」(古くは「仮雄ずい」と言った)と呼ばれるもので、本来のおしべが退化したものである。花柱と一緒に長く突き出た目立たない茶色の葯をもつ二本のおしべだけが、真正のおしべである。ここからは花粉を出す。
 進化の途上で、鮮やかな色の仮おしべは、ポリネーターの昆虫を引きつけて、まんまとだます役割を担うようになったらしいのだが、最終的にはそれも稀になり、現在では自家受粉がもっぱらである。花に蜜腺がないので、昆虫はそれを知っていて、この色の鮮やかさには惑わされないのである。

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長く延びている二つのおしべ。茶色の葯をもつ。もう一本長く延びているのは花柱である。


 ○節約型の繁殖戦略○

 あるいは、おしべ全部に花粉を作り、ポリネーターのために蜜を提供するというような、エネルギー多消費型の受粉システムから、小消費型のつまり、節約型の受粉システムにシフトしている途上なのかも知れない。ポリネーター依存の他家受粉から、自前で処理する自家受粉のシステムに移行中というわけである。だから、朝花を咲かせると半日もしないうちにしぼんでしまう。花がしぼむときには、長く突き出た花柱とおしべが接触するので、そのときさっさと自家受粉してしまうのである。
 受粉を媒介するポリネーターたちへの蜜のサービスや、せっかく作った花粉を虫さんたちに食べられてしまうというリスクを、そうしてぐんと減らしてしまった。そのため、エネルギーは植物体を繁茂させることにたくさん使えることになって、あたりいっぱいに広ごり溢れることになった。広がれば、節約して作った種子をあちこちにばらまける。
 たくさんの草々が競合する中で、茎を伸ばし、いくつも分枝して空間を占有するために集中的にエネルギーを使えるというのは、ツユクサの戦略の成功ではあるけれど、自家受粉とはつまり、自分そっくりの子孫を残すことである。一方、遺伝的多様性を確保するという点から見れば、他家受粉タイプの植物に比べれば、かなり劣ることも事実である。遺伝的多様性は、多様な環境対応能力を、その種に幅広くもたせることになるから、何らかの環境変動が起こった場合、とりあえずその種のどれか一部が生き残れる可能性を確保することができる。種の全部が同じような環境対応能力しか持たなければ、環境が急激な大変動に至ったとき、その種を保存、維持させることがきわめて困難になる可能性がある。

 けれども、いつ起こるかわからない生育環境の急激な大変動のために、毎年、毎年たくさんのエネルギーを投下して遺伝的多様性を確保するというのは、確かに無駄が多いやり方であると言えなくもない。
 そのような大変動が起こらないかぎりでは、自家受粉をもっぱらにするというやり方は、その生育環境下でその種を繁栄させるという点においては、他の植物よりかなり有利である。大規模で急激な環境変動が起こらなければ、ツユクサはこうして、節約型への道をさらにまっしぐらに行くのであろう。やがては、あんな華麗な色の仮おしべも消えてしまうかもしれない。自家受粉には目立つものをなにも必要としないからである。ひょっとしたら、花を開くこともせず、スミレの閉鎖花のように、閉じた花の中で、かってに自家受粉するという超節約型システムにまで達するのかも知れない。

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午後になってしぼんだ花。中におしべと花柱が折りたたまれている。

 ○最も節約型の繁殖システムは栄養繁殖○

 
 最も節約型の繁殖システムをとる場合には、繁殖のための特別なエネルギーをまったく投下しないという方法もある。いわゆる栄養繁殖と言われるものである。地下茎や地上茎をあちこちに伸ばして、それで新しい根を出し、新しい株をあちこちにつくる。地上に立ち上がった新しい茎や葉は、つまり親株のクローン、コピーである。あるいは、里芋などの一種のように、むかごをつくって、それで子孫を繁殖するという方法もある。いずれにしても有性生殖とはまったく異なる殖やし方である。けれども節約型の繁殖方式の最終的に行き着くところはこれである。
 このとき、植物体自身の成長と繁茂に、繁殖のエネルギーも還元されてしまうため、たがいにトレードオフの関係にあるはずの、繁殖エネルギーと植物体増大エネルギーとの配分に悩むことがなくなるのは、植物にとってひとつの理想である。

 植物に限らず、有性生殖をする生物はどれも、繁殖のためにどの程度のエネルギーを投下するのか、その生物自身の成長と体勢強化にどれほどの割合でエネルギーを投下できるのか、という問題を抱えている。そしてこの問題は、有性生殖をする生物にとって、あまりにも悩ましい、悩ましすぎる永遠のテーマであるとも言える。この配分のいかんによっては、環境変動への多様な対応を確保する以前に、他の種との競合に敗れてしまうこともあるからである。先ず、みずからの個体を成長強化して、まさに生育しているその場その場で勝ち残ることができなければ、繁殖そのものが不可能になるのである。

 ○ツユクサの繁殖戦略は中途半端?○

 そのようなことを考えてみると、現在のツユクサの繁殖戦略は、どうもどっちつかずである。退化した仮おしべを後生大事に華麗に飾っている点などは、やはり自家受粉のシステムから見れば、無駄である。繁殖エネルギー節約のために、すでに蜜をつくることをやめ、花粉の産生も最小限にとどめた。けれども、やっぱりいつでも多消費型の繁殖システムに戻れるようにと、退化した仮おしべを捨てることができないでいる。
 ということは、これから先、急激な変動がもし万が一起こったら、これまでの進化の向きをがらりと変える可能性もあると言えるのかも知れない。大きな環境変動に見舞われたとき、ツユクサはきっとそそくさと、黄色の仮おしべにも花粉を仕込み始めるに違いない。そうして、ふたたび遺伝的多様性を展開させる道へと舞い戻るのであろう。もっとも、そのようなおっとり刀で、急激な大変動に間に合うかどうか?
 あるいは、ツユクサの遺伝子には、そのようなとき、とりあえずしのげるための仕掛けが隠されているのかも知れない。必死になって環境変動をやり過ごしながら、進化の向きをぐいぐいっと変えるのであろうか? あるいは、人類が滅びた後に、新たな繁殖戦略を獲得した次世代型ツユクサがいっそう鮮やかなコバルトブルーの花弁をもって、いっそう華麗に着飾った真正おしべを誇らしげに宙に突き出すのであろうか? そして、ポリネーターを呼び込むためにいつか蜜腺までもつようになるのかも知れない。

 それはそれで華麗な変身ではあるが、そのために現在やっていることはといえば、つまり「二股膏薬」。
 やはり、どこか中途半端で、いつまでもどっちつかずの花である。

 ○ツユクサはツユクサ科○

 さて、最後にツユクサの基本的な事柄を書いておこう。
 学名は、Commelina communis(コンメリーナ コミュニス)。属名コンメリーナはオランダの植物学者コメリンにちなんだものだというが、どのような植物学者かは目下のところ不明。種小名のコミュニスは、「普通の」あるいは「共通の」という意味である。どこにでもある普通のタイプという意味であろうか。日本語属名は「ツユクサ属」。
 分布は、日本列島、樺太、朝鮮半島から中国大陸北東部、シベリアのウスリーあたりまで。北米大陸には野生化したものがあるという。もともと、ツユクサの仲間は熱帯地域に偏っており、日本のツユクサはツユクサ科の中でもかなり北方へと突出して分布しているようである。同じツユクサ科で日本に自生しているものでは、ヤブミョウガがある。葉などがミョウガによく似ているからこの名があるが、食卓に出るミョウガの仲間ではない(ミョウガはショウガ科)。
 花弁は3枚。上の2枚が円形で大きく、これがよく目立つコバルトブルーをしている。もう一枚は花の下側につき、白色で小さい。大きな苞葉に包まれたつぼみから苞葉の外に飛び出るような感じで花を開く。朝開くと、午後早くにはしぼんでしまう。図鑑などには「一日でしぼむ」とあるが、半日程度しかもたないようである。なお、英語名はその一日に着目したのか、dayflowerと言う。あるいは、北米大陸に野生化したものは、もう少し長く咲いているのかも知れないが、それについては未確認である。

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4本の仮おしべのうち、1本がちょっと長い。

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