2014年11月3日月曜日

●ツツジ科の木々にはおいしい実がなる●

 この時期では、山の秋から少し遅れてしまったが、秋の実りのことを少し。
 といっても、ツツジ科に限ってみよう。
 マタタビの仲間のサルナシはキウイフルーツように甘酸っぱくておいしいし実をつけ、アケビの仲間のアケビやミツバアケビ、ムベなどの実のほのかな甘さというように、秋の山には、おいしい実りが少なくないが、ツツジ科にも、甘酸っぱい漿果(液果)をつけるものが多いのである。


 ◆ツツジ科の甘酸っぱい実をつけるVacciniumの一属◆

 ツツジ科の中で、この一群は小粒ながら甘酸っぱい実をたくさんつける。日本語属名は「スノキ属」。ラテン語属名はVaccinium(ウヮッキニウム)だが、その由来ははっきりとはわかっていない。一説には雌牛の意味のvacca(ウヮッカ)に由来するというが、なぜ雌牛と関連するのか、まったく不明である。あるいは「牛痘疹(ぎゅうとうしん)」の意味であるvaccinia(ウヮッキニア)を連想させる特徴を持つものが、ヨーロッパやアフリカ原産のこの仲間にあるのか?
 もう一つの説は、漿果(液果)を意味するbacca(バッカ)からの転訛であるというものであるが、こちらは、これらの仲間がいずれも漿果をつける木々であることから、何となく信じやすい。ラテン語の‘v’は「ウ」の発音で‘u’と通有する音である。「ウ」の発音から「ブ」の発音への転訛はあるいは比較的容易に起こるといえるかも知れない。
 実はぼくは、こちらの説を何となく信じている。これはしかし、漿果をたいへん好むというぼくの趣味からの偏りかもしれない。


 Vacciniumの代表格はコケモモである。高山や北海道の丘陵地でコケモモはクマさんの大好物だと言うことでよく知られている。けれども、これがなかなか食べ時を判断するのが難しい。おいしいのは、リンゴのような味がするのであるが、そこまで待てずに食べることが少なくない。まだ薄赤い未熟の実は、酸っぱいなどというより渋いだけである。
 和名はコケモモであるが、学名はVaccinium vitis-idae(ウヮッキニウム ウィティス-イダーエ)で、「イダ山のぶどう」という意味である。「イダ山」は、クレタ島にあり、ギリシア神話ではジュピターが育てられたといわれている山である。その山のぶどうというわけであるから、古代ギリシア以来、おいしい実とされてきたのであろう。あるいはこの実から果実酒がつくられたこともあるのかも知れない。


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コケモモの実: 熟しすぎかな? と思えるくらい真っ赤に熟している。

 写真はよく熟して真っ赤になったコケモモである。これくらい熟していれば、甘い。クマさんはこのような赤い実を好んで食べる。ぼくは、これよりほんの少し若いものを好んで食べる。しゃりしゃりとして、リンゴのような歯触りのあるほうがぼくは好きである。

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オオバスノキの黒紫色の実:おいしい実である。

 同じVacciniumでは、スノキ、オオバスノキ、ウスノキ、クロマメノキ、クロウスゴなどが、秋のやってきた山を実感させる。スノキは「酢の木」で、 別名「コウメ」と呼ばれるほど酸っぱいが、実は黒い。オオバスノキは「大葉酢の木」で、葉が大きい。この実も熟すと黒っぽい紫色になるが、こちらのほうが甘みが多く、おいしい。ぼくはスノキは食べずに通過しても、オオバスノキは通過できない。
 よく似た名前のウスノキは熟すと真っ赤になる。いかにも漿果らしく、見るからにジューシーな実である。これも酸っぱいだけでなく甘みがある。漢字では「臼の木」であるが、これはたぶん当て字であろう。


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ウスノキ:赤い実は甘酸っぱい。学名はVaccinium hirtum。
hirtum(ヒルツム)は、「毛むくじゃらの」という意味で若枝に
二条の毛が生えていることから。

 クロマメノキは熟すと濃い紺色の実となり、うっすらと白い粉をふくので、いかにも甘そうな実に見える。しかも、栄養環境の貧しい土壌でも育つので、湿原の周囲や火山土壌などにも他の植物に優先して大きな群落をつくる。
 学名はVaccinium uliginosum(ウヮッキニウム ウリギノースム)。種小名「ウリギノースム」は「湿地に生える」「沼地に生ずる」という意味で、その主な生育地を示している。
 この実はうまい。
 ぼくは、この実の一大群生地を知っている。その群生地で実のなるときに出っ会してしまうと、ぼくはまったく動けなくなる。その低木の群落の中にどっかりと座り込んで、むしゃむしゃと食べる。一時間くらいは食べているか。ついでに弁当をかき込む。ぼくは真っ昼間に食べるが、クマさんたちは昼間は隠れていて、朝早くか夕方になってから食べに出てくる。ぼく一人では当然食べきれないから、残りはクマさんのものである。


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クロマメノキの群生地。場所はナイショ!。
この一帯はクロマメノキ一色となるのである。


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クロマメノキの実:表面に白い粉が吹いている。
「うん、うん、これが食べ頃!」


 ところで、高山の湿地にはツルコケモモというものがある。
 この実も食べられるが、同じコケモモの名はついていても、属は異なり、縁は和名に示されているほどには近くはない。たいてい高層湿原のモウセンゴケの群生の中に見られる。これも貧栄養の環境の中でよく育ち、その熟れた実はコケモモよりジューシーで甘い。属名は、Oxycoccus(オクシコックス)で、「酸っぱい実」という意味である。種小名のquadripetalus(クアドリペタルス)は「四弁の」という意味で、花冠が深く四裂していて、四弁に見えるからである(ツツジ科の花は合弁花である)。


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ツルコケモモの実:高層湿原の中に、赤い珠玉のような実に熟
す。日本語属名はツルコケモモ属。福島県吾妻山の景場平で。


 ◆ツツジ科の食べられる実、シラタマノキ属◆

 ツツジ科の食べられる実をもつもう一つの仲間にシラタマノキ属がある。ラテン語属名で言えばGaultheria(ガウルテリア)。カナダの植物学者J.F.Gauthier(ゴーチエ/1708~1756)にちなんでつけられたというが、このゴーチエなる植物学者のことはぼくは知らない。
 シラタマノキ属の属名のもとになった「シラタマノキ」は、真っ白な実をつける。花も白い。その実は漿果ではなく、蒴果である。蒴果とは、果実の中がいくつかの室に分かれていて、熟すと乾く実である。このため、室に分かれているのが、実の外から容易に見えるものもある。先ほどの漿果(液果)のようなジューシーな食感を予想していると裏切られた気がする。無心で食べれば、これはこれでおいしいのかも知れないが、かなり口当たりが違うので、ぼくはそれほど好きになれない。
 シラタマノキは、「シロモノ」という別名があるが、それは「アカモノ」という同属の植物があるからである。アカモノは熟すと真っ赤になる実をつける。シラタマノキもアカモノも実は食べられるには食べられるが、先ほどの漿果と比べると味は少し落ちる。
 特に、シラタマノキは食べるとサロメチールの匂いがするので、ちょっとびっくりする。湿布薬などに使われる薬の匂いである。たしかに甘いのだが、この匂いのために、2、3こつまめばもう十分である。一方のアカモノは、甘みも酸味もなく、あんまり果実らしいさわやかな味がしないので、食べる実としての魅力は少ない。食べても害がない、というところだろうか。あるいは長い山旅の途中で、ビタミン不足を補う一助になるかどうかというところである。


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シラタマノキの白い実。サロメチールの匂いがするので、
たくさんは食べられない。福島県吾妻連峰にて。


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アカモノの実: 実の中央部がへこんでいて、よく見ると
実の中がいくつかに分かれているのがわかる。福島県
吾妻連峰にて。

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