ヘンデルの作曲した“Ombra Mai
Fu(オンブラマイフ)”。は、紀元前のペルシア王、クセルクセス1世をテーマとしたヘンデル作曲の“Serse”の冒頭の曲です。現在は男性のカウンターテナーか、女性のメゾソプラノまたはソプラノで歌われます。
どうしてここにHandelの作曲した歌が現れるかって?
それはこれが「木陰」を歌った歌だからです。
題名の“Ombra
mai
fu”をそのまま訳すと、「どこにも蔭はない」となります。その「蔭」というのが、クセルクセス1世が愛した木の蔭、というのです。
まぁ、ちょっと息を抜いて、彼女の歌を聴きながら、ペルシアの暑い気候の中で、やさしい木陰を与えてくれた木が何であったか、ちょっとご覧くださいませ。
歌詞は、次の短いフレーズが数回繰り返されるものです。
Ombra mai fu, 蔭は決して存在しない
Di
vegetabile, その木(植物)の
Cara ed amabile, 親しみ深く かつ やさしい
Soave
piu? これ以上に心地のよいのは?
右に直訳的に訳語を書いてみました。
クセルクセスが、一本の木を見上げながら、あるいはその木肌をさすりながら、その木が与える木陰を賞でて歌うのです。
この木が投げかける蔭のように
親しみ深く、愛しい蔭は、
決してひとつもないのだ。
これ以上に心地よい蔭は。
クセルクセス1世がそうやって歌いかけた木は、Platanus
orientalis(プラターヌス オリエンターリス)であるとされています。まさにバルカン半島やアケメネス朝ペルシアの国域が原産地とされている木、スズカケノキ(鈴掛の木)です。日本ではプラタナスとも言われますが、日本で一般にプラタナスと呼ばれているのは、北米大陸が原産のPlatanus
occidentalis(プラターヌス オクシデンターリス)、アメリカスズカケノキ(アメリカ鈴掛の木)です。とはいえ、その樹形や葉の形がよく似ているので、ふつうにはあまり区別されていないようです。
東京の新宿御苑のフランス庭園やイギリス庭園には、P.
orientalis と北米のP.
occidentalisとが並木のようにして植えられていますから、葉っぱなどを見比べることができます。
日本の街路樹には、この2種類のプラタナスのほかに、もう一種、モミジバスズカケノキが植えられています。モミジバスズカケノキは「モミジバ(もみじ葉)」というだけあって、もみじの葉によく似ています。イタヤカエデの葉の縁にぎざぎざ(「鋸歯」と言います)をつけたような形をしています。
プラタナス並木を見かけたら、落ち葉を拾ってあちこちのものを比べてみると、違いがわかってくるかもしれません。ペルシアなどが原産の
P.
orientalisの葉の切れ込みが一番深いのですが、やっぱり、お近くの植物園や樹種名の札のかかっている公園で比べてみるのがいちばんです。
これからプラタナスの落ち葉のシーズンですから、拾い集めてみるとおもしろいですね。
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