2014年11月3日月曜日

●人間に寄り添うものたち(1)●
―アブラナ科とモンシロチョウ―


 菜の花、小松菜、のらぼう、ミズナ、京菜、大根、蕪、キャベツ(甘藍)、白菜、ほうれん草。

 これらの中で、一つだけ仲間はずれがあります。どれでしょう?
 それは、ほうれん草! です。
 ほうれん草はアカザ科。ペルシャ原産の野菜とされています。ほうれん草の缶詰のコマーシャルに出て来た「Popeye the sailorman」、つまりポパイで有名になった植物です。日本に入ったのは室町末期、戦国の時代であったらしい。

 さて、本題。
 タイトルにもあるように、このほうれん草以外はすべてアブラナ科であります。アブラナ科はかつて「十字花科」と呼ばれていました。それは花びらが十字架の形に縦・横に並ぶことによります。もっとも、ラテン語科名は今も“Cruciferae”(クルシフェラーエ=十字架を持つものたち)でありますから、実際はその直訳だったのでしょう。けれども、花びらが縦と横に直角になるように出ている典型的な「十字花」ではないものもあるので、日本ではより親しみやすく、代表的な植物の標準和名を科名としたということのようです。十字架状に開くということですから、どれも四弁花であります。


 アブラナ科は古くから人間に親しまれ、食べられてきた植物です。、たとえばキャベツの栽培起源はローマ時代以前にさかのぼるほど古いものであると考えられています。このキャベツの栽培のひろがりにくっついて、モンシロチョウも全世界に広まったと言われています。チョウの仲間で、これほどの世界的ひろがりを持つ種はほかには見あたりません。いかに、キャベツべったりの生活誌を選択したモンシロチョウの戦略が大成功であったかが、わかります。

 上に挙げなかったものをさらに。
 ブロッコリー、カリフラワー、クレソンもアブラナ科です。クレソンは繁殖力が強く、とんでもないところにも群生します。たとえば八ヶ岳の上智大学のソフィアヒュッテの近くの水場にも群生していたりするのです。だれかがここでクレソンを洗ったときに、こぼれ落ちた株がいつの間にか根づいて繁殖してしまったのでしょう。今では雪解けて間もないころから夏までのあいだの、サラダの具に重宝がられていますけれど、いいのでしょうかねぇ。場所が八ヶ岳ですものね。

 そうそう、「わさび」も「からし菜」もアブラナ科です。
 アブラナ科の葉や茎には、多かれ少なかれ、必ず「カラシ油配糖体」が生成されています。それが「わさび」や「からし菜」の「辛み」のもとなのですが、これは虫に食べられないために、進化の歴史の中でアブラナ科が手に入れた戦術であったのです。キャベツにも「カラシ油配糖体」が含まれていますから、本来虫たちはこれを食草とすることはできません。モンシロチョウの幼虫はそれを解毒する酵素を体内に持つことによって、キャベツを食草にできたのです。これも、やはり進化の妙というところでしょうか。
 モンシロチョウは他のアブラナ科の植物も食草にすることができますが、キャベツの栽培面積と量は圧倒的ですから、いかにもキャベツに特化しているように見えるのです。しかも、他の「カラシ油配糖体」をもつ野生の植物よりも栄養価が高いため、キャベツを食草にするのが繁殖戦略としてもっとも効率的であったのです。

 もっとも人間は「わさび」や「からし菜」など、その辛みそのものを食味として利用するわけですから、さらに上手を行っているということになるのでしょう。

 人間が目をつけて栽培を始めてから、モンシロチョウはそのキャベツの栽培面積と共に繁栄を極めてきました。人間が繁栄する限りにおいて、モンシロチョウは世界に飛び続けるでありましょう。そして、人間が滅亡した後にも、新たな繁殖戦略を見出して、生き延びるのでしょう。今ほどの繁栄は得られないにしても。


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写真はヒロハコンロンソウ。アブラナ科の野草です。

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