2014年11月3日月曜日

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ユリ科の花:ヤマユリ=かつては箱根を代表する花だった。箱根恩賜公園で/撮影:水尾 一郎

●ユリ科の花にはいろいろなものがある●

 ◆「ユリ科」と言えばやはり、「ユリ」◆

 「ユリ」と言えば、「白百合」、「小百合」などの言葉が浮かんでくるように、「ユリ科」の花の代表は、やはり、「ユリ」。と言っても、ただ「ユリ」という名の「ユリ」はない。
 いずれも、 「○○ユリ」と名づけられている。たとえばこんなユリ。
 クルマユリ、コオニユリ、スカシユリ、ヒメサユリなどは、白くないユリ。白いユリとしていちばんポピュラーなのが、テッポウユリ。これは種子島から南、琉球諸島に自生するユリで、シーボルトが球根を持ち帰り、瞬く間にヨーロッパの白いユリ市場を席巻した、というエピソードのあるユリである。
 それまでは、ヨーロッパでは「ユリ」と言えば、小振りで愛らしいあるひとつの「ユリ」だけしかなかったのが、この白いテッポウユリのおかげで、もとからあった「ユリlは「マドンナリリー」と名を改めることになってしまった。


 けれども、この「マドンナリリー」は、その名の通り、聖母マリアのユリとされ、バチカン市国の国花となっているもの。テッポウユリは豪華な感じがあるので、キリスト教の最大のお祝いである、「イースター(復活祭)」を飾るものとして、用いられるようになったため、ヨーロッパではこれを「イースターリリー」と呼ぶ。
 「マドンナリリー」は愛らしく清楚で控えめなおもむきをもちながら、高貴な気分をただよさせているので、聖母のお祝いを中心に今も用いられることがある。けれどもこの「マドンナリリー」の最大の弱点は、かなり温度管理が難しく、かんたんに栽培できないこと。イタリアや南仏は「よし」としても、球根栽培の盛んなオランダなど、ヨーロッパの北半分では難しい。それにひきかえ、琉球などの温暖な地方に産しながらも、テッポウユリは、オランダでもそれほど困難なく栽培できるために、急速にヨーロッパの主流を占める「白いユリ」となった。


 白いユリというわけではないが、テッポウユリよりもさらに大きな白地のユリ、「ヤマユリ」が日本には産する。純白色の地に、黄色の帯と、鮮紅色ないし紅紫色の斑点が無数についている花冠。真っ白ではないところが、聖なる用途にはあまり使われない理由なのだろうか、とにかく背丈も花柄も大きい。
 たとえば、大井川鉄道で、南アルプスのふもとの山里に進んでいくと、農家の庭先、切り通しの斜面、あちらこちらに、背の高い、株立ちしたいくつもの花茎の先に、さらに二つ、三つと枝分かれして大きな花を咲かせている。
 あるいは、東武日光線の今市市駅の手前当たりだったろうか、その辺りから、線路沿いにこの花が咲くのが見られる。真夏の高原の花、とでも言おうか。箱根の強羅一帯は、この花の大群生地だったという。今はその面影もなく、国道一号沿いや、恩賜公園の中などに、ちらほら見られるだけになった。丹沢もその数はかなり減ってしまった。


 ◆こんなのもまた「ユリ科」です◆

 ユリ科の仲間には、我々の身近にあるものも含まれる。
 ネギの類がいずれもユリ科。ネギ、ニンニク、ニラなどが身近な野菜。もっともこれらは日本原産ではなく、どれも中国からわたってきた。日本原産としては、ギョウジャニンニクやノビルが自生する。
 ユリ科の野菜では、ほかにアスパラガスがある。ヨーロッパ原産の野生のアスパラガスはかつては牛馬の好む食物だったという。ギリシア時代には薬用植物とされていたようで、学名にも「officinalisオフィキナーリス」とあって、これは「薬用の」という意味の形容詞。日本には江戸時代末期に観賞用のものがオランダから渡来したとある。食用にするものは明治4年に「北海道開拓使」の庭に植えられたのが最初、とされる。


 最近人気のあるカタクリもユリ科。カタクリについては、このところ熱心なファンが急増していて、蘊蓄を傾けたい御仁も少なくなさそう。で、その人たちにカタクリの講釈は任せておくことにしよう。

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ユリ科の花:カタクリもユリ科。花被片は3の倍数の6枚。おしべ6つ、めしべの柱頭は三裂する。子房は3室に分かれていて、各室に9個ずつの種子が入っている。


 ◆ユリ科の植物は「三数性」が支配する◆

 ユリ科の植物は、「単子葉植物」に分類される。その名のとおり、子葉の数が1枚。葉は見るからに「双子葉植物」とは違い、平行脈をつくる。割合に光沢もあって、葉の縁はすっとしている。つまりぎざぎざや切れ込みのないものがほとんど。切れ込みのある葉を持つ単子葉類には、サトイモ科かヤマノイモ科がある。ユリ科の葉はいずれも葉の縁にぎざぎざや切れ込みはない。
 また、花は3か3の倍数で構成される。めしべが一個でも、その先が3つに分かれていたり、子房が3室になっていたりする。もちろん、おしべは6個というのが最も多い。
 花びらを、単子葉植物では「花被片」と呼び、たとえば、アヤメなどの仲間では、外側に大きく垂れている外花被片3枚、内側にすくっと立っている内花被片3枚とで構成される。花柱も先端部分は3つに分かれていて、内花被片より大きな裂片をその柱頭部から開いている。


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アヤメ科の花:ノハナショウブ。花被片の中央奥に黄色い部分があることに注目。花菖蒲はこの花から品種改良された。そのため、野の花菖蒲という意味の「ノハナショウブ」と名づけられた。学名も、それを示しているが、そのことは以前に書いた。箱根湿生花園で。/撮影=水尾 一郎


 先にあげたヤマユリでは、花被片6枚、おしべ6個。花被片6枚と言っても、わずかながら外側につく3枚(外花被片)と内側につく3枚(内花被片)とに分けられる。めしべは花柱ひとつ。柱頭は分かれてはいないが、子房の中は3室に分かれている。

 世の中に真っ白な美しい花は少なくないけれども、ユリの白い花が、たとえばイースターや聖母マリアの祝日を飾る花として珍重されたのは、実はこの三数性の支配する花の持つ聖なる力を信じるところからだったに違いない。「三」には神秘の力があると信じられていた。イエスは十字架で死して三日目に復活している。キリスト教の神は「三位一体」として、三数性に支配されていることを示している。
 その「三」によって構成されているユリは、当然、聖なる花と見られることになる。
 ユリの英語名は“lily”だが、そのもとになったラテン語名“lilium(リリウム)”は、さらにケルト語にまでさかのぼることができるという。そのケルト語の意味は、「白い花」だという。
つまり、ヨーロッパ南部などの地中海沿岸地方を中心に、「白い花」を代表する花と言えば「リリー(lily)」だったのである。 それが、先にも述べたように、今は「マドンナリリー」と呼ばれるようになったのは、もっと素敵な白いユリ、日本のテッポウユリが、ヨーロッパ中に広まったためだった。

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ユリ科の花:ショウジョウバカマもユリ科。花被片は6枚。おしべも6本。/撮影=水尾 一郎

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